技術専門学校の経営で学んだ「人材育成」と「教育の本質」について

カルチャー

私は30代の頃、ある美的系の技術専門学校を経営していました。
コースは全6か月。ベーシック・アドバンス・スペシャルの三段階で構成された、技術習得に特化した専門的な学校です。
今振り返ると、この学校運営で得た経験は、私のその後の人生観や人材育成のスタンスに大きく影響しました。

卒業後に育つ「理想の人材像」をどう描くか

まず最初に決めなければならなかったのは、卒業後にどのような人材を社会に送り出すのかという理想像の設定でした。
ここで大きく選択が分かれます。

  • 誰かのアシスタントとして即戦力になる、社会性を備えた人材を育てるか
  • 社会性よりも“美的表現力”に特化し、アーティストとしての可能性を最大限に伸ばすか

前者は実務的で、どこへ行っても一定の成果を出せるタイプ。
後者は、アシスタントとしては使えないが、美的感性や表現の幅がずば抜けているタイプです。
私は最終的に後者の“表現者寄り”の育成方針を選びました。

もちろん、表現力だけで勝負するには土台となる確かな技術が不可欠です。
そのため、ベーシック・アドバンスでは技術昇級試験を設け、スペシャルでは思い切り表現に振り切る —
この流れを逆算してカリキュラムを設計しました。

技術試験は“加算方式”か“減点方式”か

教育現場で重要になるのが採点方法です。
技術試験には大きく分けて2つの方式があります。

1. 加算法(長所を積み上げる評価)

0点からスタートし、良い部分を見つけて点数を足していく方式。
長所を認め、伸ばす教育に向いています。

2. 減点法(欠点をなくす評価)

100点を持点としてスタートし、100項目から欠点を引いていく方式。
弱点克服につながり、技術基礎を揺るぎないものにするための方法です。

私は技術基礎に限っては“減点法”を採用しました。
技術は欠点の積み残しが後に大きな差になるため、まずは土台の精度を徹底的に固めるべきだと考えたのです。

教育の裏側には“経営上の大人の事情”もある

また、学校として避けられない現実もありました。
どれほど厳しく評価したい気持ちがあっても、技術不足の生徒の中からでも一定の合格者をあらかじめ設定しなければ、学校側の指導力不足と判断され学校側の責任問題に発展します。
経営という観点から見れば、これは避けられない“大人の事情”。
経営と教育は理想論だけでは成り立たない難しさがあります。

「相手のせいにしない」それが教育者のプロ意識

学校経営を通じて私が一番学んだこと。
それは、相手が成長しない理由を相手の責任にしてはならないということです。

「相手が上手くならないのは、自分の教え方、工夫、優しさが足りなかったのだ」
「今日の自分が変われば、相手も変わる」
その信念が、私の教育観の核心として今でも残っています。

お金をいただいて教える以上、プロとしての姿勢が求められます。
そして何より、人に教えることは自分自身を成長させ、自分の“フォーム”を固める作業でもあります。

もし生まれ変わったら、教師も良いかもしれない

ふと考えることがあります。
もし生まれ変わったら、小学校の教師という仕事などに憧れます。
自分の伝え方次第で、相手の未来を大きく変えられる。
その責任とやりがいは、何ものにも代えがたいものでしょうね。

あの専門学校の経験は、私にとって“教育とは何か”を考えるきっかけとなり、今の自分を形作った大切な時間でした。

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