私は50代の頃、高収入バイトの面接担当をしていた経験から、縁あってモデルの個人撮影会の運営に携わりました。
1対1、45分という短く濃密な時間の中で行われる撮影会。平均料金は約15,000円。
客層はいわゆる「マニアックなオタク系の男性」が多く、独特の世界観と空気感がありました。
お客様重視か、モデル重視か──常に問われる運営の姿勢
この業界では、スタッフ自身が“誰を軸に考えるか”で、サービスの質が大きく変わります。
私は一貫して「お客様重視」の考え方でしたが、中には極端にモデル側へ肩入れし、
お客様を「スケベな変態野郎」扱いして接客するスタッフもいました。
もちろん、接触行為は一切禁止。ルールはルールとして徹底させる。
そのうえで大切なのは、どれだけ“人として”敬意を持てるかという点でした。
面接の時点で「鉄は熱いうちに打つ」教育を徹底
モデル候補には、面接段階から私自身が直接方針を伝えました。
- お客様は写真を撮りに来ているが、本質は「優しい女性に会いに来ている」
- 理想の男性像とは異なるケースが多いが、節約しながら来てくれる“努力の積み重ね”を尊重する
- 45分の中で「淡い疑似恋愛のような世界観」を演出することで、固定客になる
- 会話の緩急が大切。話して、笑って、ふと静かに相手の目を見つめる──そこで心が動く
「撮影が目的」という枠の中であっても、心の交流が生まれなければ、飽きられてしまうのです。
カメラ技術よりも、コミュニケーション力が重要になる場面も少なくありませんでした。
私がモデルに伝えていた“3段論法”の接客哲学
私は自分なりに、モデルへ伝える接客哲学を3段論法にまとめていました。
- お客様は日々一生懸命働いて、お金を稼ぐ。
- モデルは心を込めて“おもてなし”をする。
- お客様は「自分は生きていていい」「明日から頑張ろう」と再び歩き出す。
つまり、モデルは単なる“撮影対象”ではなく、
お客様の人生の励みを作り、日本経済を少し動かしている存在でもあるということです。
裏付けは無いかもしれませんが、実際に接していると「マニアックでオタク系の男性」には、
意外と社会的地位の高い人が多いと感じることもありました。
最初に教育しなければ、モデルは必ずお客様を見下す
これはある意味、運営者としての“真実”です。
初期教育を怠ると、モデルはすぐにお客様を見下し、態度が雑になってしまう。
だからこそ、最初の段階で「お客様は尊敬すべき存在」であることを徹底的に伝えていました。
私は、お客様の前でなくても「客」「お客さん」という呼び方は絶対に使いませんでした。
常に「お客様」。
この言葉の選び方ひとつが、接客の姿勢に直結すると信じているからです。
マニアックだとしても、“人生の素晴らしさ”を感じてほしい
たとえ客層が一般的なイメージとは異なっていても、
私は彼らに「人生って面白い」「生きるって悪くない」と
少しでも感じてもらえれば、それで十分だと思っています。
彼らは、ただ単に写真を撮りたいのではなく、
日常の延長線上に、少しの非日常とぬくもりを求めているのです。
エンターテインメントを愛している人たち、とも言えるかもしれません。
撮影会の運営を通じて私は、
人間の孤独、希望、努力、癒やし──そのすべてが交差する場所に立ち会っていたのだと今では思います。

